2年前、計画倒れに終わった涸沢ボルダー。過去に稜線歩きの帰途、何度か涸沢を通り過ぎたけれど、泊まったことはなかった。大学の先輩がことあるごとに「石がゴツゴツして寝られんかった」と話してたなぁ。
前日はのんびり東京を出発し、横尾泊まり。
6時頃登り始める。圏谷に近づくと、石畳の道になる。何十年もかけて整備されたのだろう。歴史を感じる。
さっき畳んだテントを設営する。地面が露出した平らな絶好の場所が空いていた。このキャンプ場でいちばん良い場所じゃないかと思った。担いできたのはPusherのspotである。
船橋健さんのトポをコピーしてきた。昼寝岩は一目瞭然。あのへんがヘリポートで、あのスラブ状の岩がかくかくしかじか。あそこにぽつねんと鎮座しているのは《雪の多い年はシーズン終わりまで恥ずかしがって出てこない》岩だろうか。
まず昼寝岩。吊り尾根面の左カンテを登る。5級くらいだと思います。
吊り尾根面の右カンテはいちばんルーフが深い。4級くらいだと思います。
暗いのでホールドを見失って、しばらく迷った。
カンフーロックSD課題。マントルが悪い。3級くらいだと思います。
この課題をさわっている最中、ヘリポートのあたりにフルサイズのマットを持ったボルダラーが2人。30分くらい遊んでおられた。小屋番の方だろうか。
自分も行ってみる。スラブの左側面が薄かぶりで面白そうだ。右カンテには明瞭なチョーク跡あり。カンテを限定してみたらどうだろう。ホールドをまさぐっていると、ヘリコプターが飛んできた。レスキューの方が「マットが飛ばされないようにしてください」と声をかけてくる。少し離れた場所へ退避した。怪我をされたのだろうか、登山客らしい女性を乗せると、飛び去った。レスキューの方が「どうもすみませんでしたね」とおっしゃる。「いえいえ」恐縮しました。
トポにはこの岩の名前がない。勝手にレスキューロックと呼ぼう。
右手のピンチカチ(親指をクラックに掛ける)がポイント。この手のホールドが苦手な人はさっぱり出来ないかも。ミジカシイ系の2級だと思います。
ウインドアウトロックへ移動。こ、これは素晴らしい……。涸沢くんだりまで来て、こんな現代のニーズにマッチした岩と出会えるなんて。
こいつに打ち込んだら、涸沢ボルダーをひと通り見て回るという今回の目的が疎かになってしまうかもしれない。先に涸沢小屋方面を偵察してこよう。おっと、テントに寄って、お約束を忘れずに。
涸沢小屋の近くにもボルダーがあるらしいという情報を仕入れてきたけれど、地形的になさそうな気がする。とりあえずテラスから圏谷を眺めながらソフトクリームを食った。ほんとはジョッキパフェを味わいたかったたけれど、売店のお品書きには見当たらなかった。ムクツケキ男が「あのぉ~ジョッキパフェはないんですか」と聞く勇気はなかった。
さて、腹ごしらえも済んだし、心置きなく打ち込もう。
最初、下部左寄りの水平アマカチに両手添えしてSDスタートし、左手クロスで縦ホールドをとり、右手で遠くの縦ホールドをとろうとした。悪すぎて返せず。両手サイドホールドでスタートすることに。シークエンスはすぐに解明した。が、下地には石がゴロゴロしているので、右手を飛ばすダイナミックな1手が出しにくい。4~5回目のつなげトライ。
ペシッと音がするのが核心の1手。上部はぶっつけ本番。ガバに見えても手前に引かないように。真下に押さえ込むように。1級くらいだと思います。
ダスターズウォールも面白そうであった。次の機会にとっておこう。
あ、そうそう。涸沢フェスティバル、やってました。夜はアレックス・オノルドのフリーソロの映像とか流してた模様。
涸沢ボルダー。数は少ないけれど、かぶってて、握れるホールドがあって、現代のニーズにマッチしている。山歩きメインで行った人も、リッジレストやら銀マットやら持ち寄れば楽しめるんじゃないだろうか。クライミングシューズはサイズがきつすぎないものを。きっと長時間歩行で足がむくむと思うので。
最終日は下山のみ。ピークを踏みたい気がしたけれど、こないだみたいにヘロヘロになったら、最終バスに間に合わないかもしれない。左膝もアレだし。もう一日あればな……。
穂高よさらば、また来る日まで。
エクスペドのダウンマットを装備に加えた。夏山では明らかにオーバースペックだけれど、その分シュラフを薄くすればバランスがとれるだろうと。
付属の防水バッグとして使えるポンプで素早く膨らますことができる。実際にやってみて気づいたのは、マットをきちんと広げた状態でないと膨らましにくいということ。ポンプの接続部にしろ、マット本体にしろ、折れ曲がっていると、空気が入りにくい。悪天時、とりあえずテントに転がり込んで、中で膨らますという状況では、窮屈な思いをするだろう。畳むときは、排気口への空気の移動を遮らないように、縦長の三つ折にして丸めていく。いい加減に丸めると、スタッフザックに入らない。ダウンシュラフならば、根性で押しこむことができるけれど、ダウンマットにその手は通用しない。排気口以外に空気の抜け道がなく、丸まった状態では奥底に残った空気は抜けない。もし抜けたとしたら、それはパンクしているのである。最初に戻ってキチキチに巻き直すしかない。
寝転がると、接している背中はたしかにポカポカする。けれど極薄のシュラフでは、他の部分が寒くて良く眠れず、翌日の行程は辛かった。